クールな女上司の秘密

「その時々で色々です」

「はあ……」

「時間がないので、失礼します!」

「あ、はい」


 俺はその子にペコッとお辞儀をし、足早にチーフの元へ向かった。


「すみません」


 と言ったが、チーフは無言で俺に背を向け歩いて行った。背筋をピンと伸ばし、ヒールの音を響かせながら。

 彼女の後を追うように行くと、受付カウンター前のソファーから立ち上がり、こっちを見る鈴木さんの姿が目に映った。

 鈴木さんは協力会社のプログラマーさんで、年は俺より一回りぐらい上。もちろん、4つ上のチーフより更に上だ。

 横幅があってズングリとした体型から、密かに“クマさん”というあだ名で呼んでいたりするが、性格は温厚でスキルが高く、俺は彼を尊敬してるし、好きだ。

 初めの頃に“お近づきに”と鈴木さんが言い、気乗りのしないチーフを半ば強引に巻き込み、3人で飲みに行った事がある。

 その時に聞いた話だが、チーフと鈴木さんは、今のシステムの開発当初から組んでいて、かれこれ7年ぐらい前からの仲らしい。当時、俺はまだ学生だったわけだが、チーフは全くの新人で、頑張ってはいたがおっちょこちょいで、ミスや勘違いが少なくなかったという。

 今のチーフからは想像出来ない話ではあるが、その時からチーフを少しだが身近に感じるようになったのだった。