「たぶん美樹本さんも佐藤さんの事を誤解して、割り切れる子だと思ってたのね。だから堂々と不倫なんか……」


 それどころか、チーフは続いて不思議な事をスラスラっと喋った。


「ちょ、ちょっと待ってください。まるで美樹本さんと佐藤さんが不倫したように聞こえるんですが……」

「あら。佐伯君は知らなかったの? 昨夜あの二人がホテルに入るのを会社の人が見てて、今日はその話で大変だったのよ?」

「…………えっ?」


 驚き過ぎて、言葉が出ない。


「その様子じゃ、やっぱり知らなかったみたいね。びっくりよね? あの愛妻家で有名な美樹本さんが、まさか不倫するなんて……
しかも相手があの佐藤さんだなんてね。私もチーフとして、監督責任を問われるかもしれないわ」


「ち、ち、ち、ち……チーフじゃなかったんですか!?」

「はあ?」

「み、美樹本さんの不倫相手」

「ば……バカ言わないでよ。なんで私が……」

「だって俺、聞きましたもん」

「誰からよ?」

「えっと、チーフと同期の、名前は何だったかなあ」


 気が動転してるせいか、名前が出て来ない。


「田中美鈴かしら?」

「そ、そうです。田中さんです」

「本当に美鈴が言ったの? 私が美樹本さんと不倫してるって」

「そうですよ。……あ、いや、はっきり不倫してるとまでは言ってなかったかもです」

「でしょ? 心当たりはあるにはあるのよね」


 いったんは喜んだものの、チーフが言った、事もなげな一言で、再び俺は奈落の底に……?


「やっぱり不倫してたんですか?」

「違う! 違うけど……」


 不倫は否定してくれたが、なぜかチーフは口ごもり、頬を赤らめた。まさか、美樹本さんを好きとか言うんじゃ……