クールな女上司の秘密

「佐伯君のスマホじゃない?」


 確かに俺のスマホだった。ポケットからスマホを出したら、暁美からのメールを着信していた。


「暁美からのメールでした」


 そう言ったら、チーフの顔が一瞬にして曇ったように見えたのだが、それはたぶん俺の思い過ごしだろう。

 「何だろうなあ」とか言いながら暁美のメールを開いて見たら……


「うわあ、参ったなあ」


 つい俺は大きな声を出してしまった。


「どうしたのよ?」


 なぜか不機嫌そうなチーフの声。人前でメールを開いたのはよくなかったのかも。


「暁美のやつが、彼氏を僕に紹介したいから、いつがいいかって。あいつ、いつの間に……」

「えっ?」


 チーフはなぜか驚いたらしく、目を大きく見開いていた。


「どうかしましたか?」

「い、いいの? 彼女……浮気?」

「はあ? すみませんが、意味がわりません」

「だ、だって、暁美さんってあなたの彼女なんでしょ?」

「やだなあ、暁美は僕の妹です。言ったはずですよ。記憶はありませんが」

「そんなの、聞いてない。そうか。そうなんだ。そうだったんだ。もう……悩んで損した!」

「はあ? チーフは何を悩んだんですか?」

「知らない!」


 はて、何だろうか……


「あっ、わかった。だからだ。チーフは暁美を俺の彼女だと勘違いして、だから金曜の夜は俺に帰れって言ったんだ。暁美に気兼ねして。ねえ、そうなんでしょ?」

「そ、そうよ。悪い?」

「悪くはないですけど、ドジですね」

「うるさいわね……」


 ん?

 ちょっと待て。気兼ねする事を悩むって、普通言うかな。言わないよな。ひょっとして、チーフも俺の事を好き、とか?
 飯も食えないほどの悩みって、俺の事だったりするのか?

 なんてな、そんわけないや。チーフの心には美樹本さんがいるじゃないか。現に昨日だって、チーフは美樹本さんと密会したわけだし。ああ、くそっ!


 そうさ。チーフが飯も食えなくなるほど悩んだのは、美樹本さんとの事を悩んだに決まってる。しかしみんなにバレちゃって、明日からチーフはどうするんだろう。

 相手も割り切ってるから大丈夫、みたいな事を美樹本さんは言ってたと思うが、とんでもない話だ。あの人はチーフの事を、まるで解ってない!

 今はニコニコしているが、内心ではきっと辛い思いを……って、なんでチーフは笑ってるんだ?