クールな女上司の秘密

「私、着替えてくる」

「そうですね。あ、シャワー浴びますか?」

「うん、そのつもり。汗かいて気持ち悪いから」

「ですよね」


 しかし俺は、嫌な想像をしてしまった。シャワーを浴びてるチーフ。もちろん全裸だけど、そういった事ではなく、チーフは突如また目眩を起こし、倒れた時にバスタブの淵に頭を強打し、たちまち血が床を流れて行って……みたいな。ちょうど昔観た映画の『サイコ』の、有名なワンシーンのような光景を……


「チーフ、僕も一緒にシャワーを浴びます」

「ど、どうして?」

「変な意味じゃないんです。『サイコ』みたいになったら大変だからです」

「はあ?」


 俺は上着を脱ぎ、タイを外してワイシャツを脱ぎ始めた。


「ちょ、ちょっと待って。それだけは勘弁して?」

「どうしてですか?」

「どうしてって、恥ずかしいからに決まってるでしょ?」

「僕は気にしませんよ。いや、気にしないようにします」

「バカね。私が気にするのよ。マジで勘弁して」

「マジで?」

「マジで」

「そうですか。でも、マジで気を付けてくださいね。もし目眩がしたら、すぐにしゃがむんですよ? 倒れて頭とか打ったら大変ですから」

「はいはい。佐伯君って、意外に心配性なのね。そんなところも……」

「え?」

「な、何でもない。じゃあね」


 チーフはプイッと顔を背け、行ってしまった。“そんなところも”の続きは何だったんだ? ま、いいか。さてと、何を作ろうかなあ。


 俺はキッチンへ行き、勝手に冷蔵庫の中とかを見て食材をチェックし、料理の献立を考えた。いや、正確に言えば、考えようとした、だな。