クールな女上司の秘密

「病院へお願いします。どこでもいいですから」


 俺は運転手さんにそう告げたのだが、


「病院はイヤ。家に帰りたい」


 俺の腕の中で、チーフがか細い声で言った。見れば、目は閉じたままだ。車は既に走り始めていた。


「そんな子どもみたいな事は言わないでください」


 俺はハンカチでチーフの顔の汗を拭いつつ、たしなめるように言った。チーフが病院を嫌うのは金曜に聞いて知っていたが、今日は無理矢理にでもチーフを病院へ連れて行くつもりだ。チーフの目眩が、何かの病気のせいかもしれないから。


「少し休めば治るから……」

「ダメです」

「原因はわかってるの」

「へえー、そうですか」

「食べてないから……」

「へえー、お昼はまだだったんですね」


 俺はチーフが子どもみたいに駄々をこねてると思い、適当に受け答えをしていたのだが……


「一昨日から……」

「一昨日ですね、って、二日以上も食べてないんですか!?」

「うん」

「うん、じゃないですよ。何やってるんですか、もう……」


 チーフの無茶に、俺は呆れ返ってしまった。今の今まで、チーフは誰よりもしっかりした人だと思っていたが、実はダメダメな人なのかもしれない。俺が付いていてあげないと……