クールな女上司の秘密

「チーフ!」

 俺は一目散にチーフに駆け寄り、屈んで彼女の頭を下から支え上げた。


「またやっちゃった」


 チーフは俺を見てそう言い、目を閉じた。顔は真っ青で、額には既に玉のような汗が吹き出ていた。

 俺は迷う事なくチーフを抱き上げた。 金曜も思ったが、チーフの体は身長の割には軽かった。


「高橋さん。俺はチーフを病院へ連れて行くので、部長に言っておいてください」

「お、おお。言うも何も、みんな見てるけどな。チーフを頼むぞ?」

「はい」

「佐伯君、鞄はどこ?」


 見ると佐藤さんが俺とチーフの上着を持っていた。素早いなあ……


「俺のはいいいです。どうせろくな物は入ってないんで。その代わりチーフのをお願いします」

「そうね!」


 俺はチーフを抱き、佐藤さんは俺達の上着とチーフのバッグを持ち、急いで社の玄関を出ると、ちょうど客待ちのタクシーが停まっていた。

 その後部座席にチーフを抱いたまま乗り込み、佐藤さんから上着なんかを受け取った。


「私も行こうか?」

「いいえ、俺一人で大丈夫です」

「わかった」

「じゃ……」

「待って。あのね……」


 佐藤さんが何かを言いたそうで、それでいて言いにくそうにした。何だか知らないが、早くしてほしいんだけどなあ。


「私のせいかもしれないの」

「え?」

「チーフが倒れたのは」

「それはないですよ。じゃあ、行きますので」


 タクシーのドアが閉まり、窓越しに佐藤さんを見ると、彼女は涙ぐんでいた。