「チーフ……?」

「やっぱり帰って!」


 チーフは両手で俺の胸を押し返し、体を起こしてしまった。


「こんな事したら、きっと後悔する。あなたも、私も」


 いいえ、俺は後悔なんかしません。


「わかるでしょ? 頭を冷やして」

「わかりません。ぼ、いや、俺は、チーフの事が、す……」

「言わないで!」

「えっ?」

「そんな軽はずみな言葉、聞きたくない」

「そんな……」

「とにかく帰って。帰ってちょうだい!」

「チーフ……」


 俺は渋々上着を着て、チーフの部屋を後にした。

 チーフと想いが通じ合ったと思ったのは、とんだ勘違いだったらしい。チーフの心には、やはり美樹本さんがいるのだろう。


 夜風が身にしみ、やっぱりコートを着るんだったと後悔した。なんか俺、泣きそう……