チーフではないが、俺は目眩がしそうだった。

 チーフの体は温かくて柔らかで、石鹸の香りがした。初めは少し抵抗したが、次第に体から力が抜け、おそらく俺が支えていないと立っていられないだろう。

 ゆっくり唇を放すと、チーフは誘っているかのような、熱っぽい目で俺を見つめた。そんなチーフを俺はひょいと抱き上げ、寝室へ行ってそっとベッドに横たえた。そして上着を脱ぎ捨て、タイを緩めながら、チーフにのしかかっていった。


「俺、今日は帰りません」

「え?」

「朝までずっと、チーフといたいから」


 そう言ってチーフの口を再びキスで塞ごうとしたのだが……


「待って!」

「え?」

「ダメよ。待ってるんじゃないの?」

「は? 待ってるって、誰の事ですか?」

「女の子よ。この間はいなかったけど」


 この間はいなかった女の子?

 はて。チーフは誰の事を言ってるのだろうか……

 ああ、そうか。


「暁美の事ですか?」

「う、うん。たぶん、そう」


 へえー。チーフは妹の暁美を知ってるんだ。いつ話したんだろう。あ、そうか。あの晩、つまり酔って記憶を失くしたあの夜、俺はチーフに暁美の事を話したんだな。なるほどね。


「それなら問題ないです。あいつ、今日は来ませんから」


 という事で、再度キスに挑んだのだが……

「いや!」

 チーフにそっぽを向かれてしまった。