クールな女上司の秘密

『えっ?』

 と言ったのは二人同時だが、

「ひゃっ」

 と言ったのはもちろんチーフの方だ。


「すみません。チーフの汗が、すごかったもので……」


 俺はすかさずチーフから顔を背けた。


「そ、そうよね。ありがとう。すごい汗。着替えるから、いい?」

「あ、はい。お手伝いします」


 そう言ってチーフを振り向いたら、手でブラウスの前を合わせたチーフに睨まれてしまった。と言っても、怒ってると言うよりは拗ねてるって感じで、ちっとも恐くないばかりか、むしろ可愛いと思った。こんなチーフの表情は、今まで見た事もない。


「わざと言ってない?」

「と言いますと?」

「自分で着替えるから、ここから出てほしいのよね」

「……ああ、その“いい?”でしたか。失礼しました。でも、もう大丈夫なんですか?」

「ええ、大丈夫。実は私、時々ああなるの。時間が経つと治まるのよ。ただの貧血だと思うのだけど……」

「一度病院で診てもらった方が良くないですか?」

「そうねえ。でも、病院って苦手で……」

「僕もですよ。じゃあ、向こうに行ってますね?」

「ごめんね」


 という事で俺はチーフの寝室を出て、元の場所に戻って座った。

 チーフ、治ってよかったあ。チーフの肌って、すげえ綺麗なんだな。それと、さっきのチーフはいつになく素直で、可愛かったな。病気で気が弱くなってるのかな。


 ああ、今夜は帰りたくないなあ……