チーフは地下鉄に乗り、もちろん俺も一緒に乗った。今日まで知らなかったが、方向が俺と同じだった。

 チーフと並んで吊革に掴まった。時々体と体が触れ合い、チーフはそれが嫌なのかモジモジしていたが、車内はかなり混雑しており、言ってみれば不可抗力というやつだ。

 俺はと言うと、普段は出来るはずもないチーフとのスキンシップを、密かに楽しんでいた。チーフの体は、思ったより柔らかかった。


 そうこうしている内に、俺が降りる駅を過ぎてしまった。


「どうして降りなかったの?」


 意外にも、チーフは俺が降りる駅を知っているらしかった。


「まあ、いいじゃないですか」


 とか言いながら、俺は素知らぬ顔でチーフの横に立ち続けた。

 次の次の駅でチーフは地下鉄を降り、俺も続いた。何の事はなく、チーフが降りる駅は俺の駅のわずか2つ先だった。

 チーフが降りる駅までのつもりだったが、こんなに近いのなら、いっそのことチーフのアパートまで付いて行こうかな。うん、そうしよう。


「駅からは歩きですか?」

「そうだけど、まさか付いて来る気?」

「そのつもりです」

「信じられない。迷惑なんだけど?」

「どうしてですか?」

「何が?」

「どうして迷惑なんですか?」

「それは……プライバシーの侵害だからよ」

「それを言うならおあいこですよね? チーフも僕のアパートに来たじゃないですか」

「そ、それは……」

「ま、気にしないでください。中に入れろとは言いませんから」

「そんなの……当たり前よ」


 チーフはまたぷいと横を向いてしまった。

 駅から歩いて行くと、だんだん人通りが少なくなり、周囲が暗くなっていった。


「この辺って、女性の一人歩きは危険なんじゃないですか?」

「そんな事ないでしょ?」


 とチーフは言ったが、そんなのはわからないし、何かあってからでは遅いと思う。チーフが暴漢に襲われるシーンを想像したら、胸がキューッと締め付けられた。

 よし、決めた。明日以降も、俺は毎日チーフを家まで送るぞ。