「チーフと帰ろうとしてるだけですよ」


 チーフの反応は想定の範囲内であり、俺は予定していた言葉を返した。

 ちなみに、下手な小細工をするつもりはない。チーフは当然ながら俺の行動に不信を抱くはずだが、俺はとにかくチーフと帰りたい、の一点張りを貫くつもりだ。事実そうなのだから無理はなく、その理由を悟られないようにする事にのみ専念すればいいのだ。


「どうして一緒に帰らないといけないの?」


 これも想定内だ。もちろん返事は用意しているが、これがちょっとばかり照れくさい。


「1秒でも長くチーフといたいからです」


 よし。意外とすんなり言えたじゃないか。

 チーフの反応はというと……一瞬キョトンとした後、ぷいと横を向いてしまった。これは想定外だ。

 想定では、怒って“ふざけないで!”とか言われると思ったんだよな。でも、その直後にチーフは足早に歩き出したから、怒った事には変わりなく、その意味では想定内だ。


 俺はすぐにチーフの横に並び、歩みを合わせた。今夜はやや冷え込みがきついが、胸の中は不思議と温かく、鼻歌を歌いたくなるほど愉快だった。