「えっ?」


 なんと、拒否されてしまった。


「な、なんでですか? 不倫は悪い事でしょ? なんでやめないんですか?」

「まあ、不倫は良い事とは言えないがね、悪いとも思ってないんだよ、私は。法に触れるわけでもないしね」

「なっ……」

「お互い大人で、わきまえてさえいればいいんじゃないのかな。私はそういう考えなんだよ」

「お、奥さんに知られたらどうするんですか? 大変な事になりますよ」

「いや、それは大丈夫だ。私は下半身がだらしなくてね。妻もそれはよく知ってる。私が浮気しても、体だけの関係なら妻は何も言わない。
ちなみに、君に言う義務はないが、妻はあれが苦手でね。私達はもう何年もベッドを共にしてないんだよ」

「そ、そんな……」


 そんな事ってあるんだろうか。もしかして、ハッタリか?
 しかし、それにしては堂々としてるし、あるいは本当なのかも。そんな夫婦の関係なんて、俺には到底理解出来ないし、したくもないが。


「じゃあ聞きますけど、美樹本さんは相手の女性を愛してないんですか?」


 そう詰め寄ったのだが、


「当たり前じゃないか。私が愛するのは妻だけだ」


 即答だった。なんて事だ。これではチーフが哀れ過ぎる……


「相手の気持ちはどうなるんですか?」

「はあ? 相手も同じさ。お互いわきまえてるって言ったはずだが?」

「嘘だ!」


 美樹本さんは嘘を吐いている。なぜなら、俺はしっかりこの耳で聞いたんだ。チーフが切ない声で、“好きなんです”とこの人に言うのを。“好きすぎて”とも言っていたはずだ。

 この、大嘘つきめ……