俺は美樹本さんの目を見て、ズバリと切り出した。すると案の定、美樹本さんは目を泳がせ、残念ではあるが、チーフと不倫している事を俺は確信した。


「君、いきなり何て事を言うんだ?」

「してないんですか?」

「……ああ」

「惚けても無駄ですよ。名前は敢えて言いませんが、相手は僕のごく身近な女性。違いますか?」


 俺がそう言うと、少しの沈黙の後、美樹本さんの目が座った。そして、片側の口角を上げてニヤッと笑った。


「どうして分かった、なんて聞くのはよそう。意味がないからな。確かに私は不倫をしたよ。それで? 君は何を言いたいんだ?」

「開き直りですか?」

「そう受け取ってもらっても構わないがね、君の真意を知りたい。もしかして、私を脅すつもりか?」

「違う!」


 つい怒鳴ってしまった。美樹本さんの太々しい態度に腹が立ったからだ。盗っ人猛々しいとは、こういう事ではないだろうか。

 しかし感情的になるのはよくないな。冷静に話し合い、美樹本さんには反省してもらわないと……


「違います。あなたを脅すつもりはありません。いや、あなたの出方次第では、あるいはそれもあるかもしれません」

「なるほど。なら、私にどうしろと?」

「そんなの決まってるじゃないですか。不倫をやめてください」


 おそらく美樹本さんは“わかった、やめるよ”とか言うと思う。それで解決。意外に簡単だったな、と思ったのだが……


「君に指図されるのはごめんだね」