善は急げではないが、俺は早速美樹本さん宛の社内メールを送った。折り入って話したい事があるので、時間をくださいと。

 美樹本さんからすぐに返事があり、久々に酒でも飲もうと書いてあったが、業務時間中がいいと俺は返事をした。飲食をしながら話したくないからだ。

 という事でその日の夕方、ミーティングルームの一室で、俺は美樹本さんと会う事になったのだが……


「どうした? 恐い顔して……」


 後からやって来た美樹本さんは、俺を見るなりそう言って顔に苦笑いを浮かべた。どうやら顔に出てしまっているらしい。美樹本さんへの怒りが。


「お忙しいところをすみません」


 すかさず俺は立ち上がり、元上司に一礼した。これから文句を言ってやる相手ではあるが、目上の人への礼儀はわきまえるつもりだ。


「いや、構わんさ。今日はあらたまって、どんな話かな」


 俺は、正面に座った美樹本さんの顔を真っ直ぐに見据えた。

 美樹本さんは、確か40代の半ばだと思う。髪には白い物がちらほら見えるものの、小麦色に焼けた顔は若々しく、かつ男らしくて精悍だ。俺はやらないが、ゴルフの腕前は社内でも相当なものらしい。

 ゴルフだけでなく、美樹本さんは会社の中のエリート中のエリートで、今月異動した先は管理部門の部長で、役員への道をひた走っていると、誰かが言っていたと思う。

 そんな人物に、俺は真っ向から意見しようとしているのだ。そう思うと怖気づきそうになるが、負けてたまるかってんだ。


「お互い仕事中なので、単刀直入に言います」

「うん」

「美樹本さんは……不倫してますよね?」