クールな女上司の秘密

「わかってる」


 今のは美樹本さんの声だ。しかし、何が“わかってる”だ。もっと気の利いた言葉を返せないんだろうか。この人は……


「私、最近は仕事も手に付かない時があるんです。好き過ぎて、叫びたくなるんです」


 チーフはそんなに悩んでるんだ。ちっとも気付かなかった。


「おいおい、それは困るよ。君はチーフなんだから、しっかりしてくれないと……」


 誰のせいだよ!?

 俺は美樹本さんの言い草に、滅茶苦茶腹が立った。今すぐ飛び出して、ぶん殴ってやろうか。


「それはわかってます。でも……グス」


 う。チーフが泣いてる。もう我慢できん。こうなったら……


「わかった。場所を変えて話し合おう。ここでは人に見られるかもしれないから」


 俺は今にも壁の陰から飛び出す勢いだったが、美樹本さんの言葉で何とか思いとどまった。


「もう上がれるのかい?」

「ええ」

「では、いつもの店で落ち合おう」

「はい」


 まずい、見つかる!

 俺は大慌てで、それでいてしっかりと足音は忍ばせ、その場を去って職場に戻った。