夜。帰る前に寄っておこうとトイレへ行ったのだが、その時にひと組の男女がいる事に気付いた。荷物用エレベーターの前の、昼間でさえあまり人が通らない、窓明りだけの薄暗い場所に、スラリとした男性と、やはりスラリとした女性が互いに向き合う、かなり絵になるシルエットが俺の目に映った。
そしてその女性は、たとえシルエットでも誰かはすぐに分かった。チーフだ。男は……美樹本さんだ!
普通なら、気にせず立ち去るのが礼儀だと思うが、俺はそれが出来なかった。チーフと美樹本さんが不倫している事について、実は頭の片隅ではまだ信じ切れていなかった。いや、信じたくなかったと言うべきか。
こんな人目の付かない場所でこっそり会っている時点で、限りなくブラックに近いグレーだと思うが、それを確かめたいという強い欲求に負け、俺は足音を忍ばせ、そーっと二人の側まで近づき、壁の陰に身を潜めた。すると……
「好きなんです」
いきなり俺の耳に飛び込んで来たのは、チーフの、いかにも切なそうな声だった。
そしてその女性は、たとえシルエットでも誰かはすぐに分かった。チーフだ。男は……美樹本さんだ!
普通なら、気にせず立ち去るのが礼儀だと思うが、俺はそれが出来なかった。チーフと美樹本さんが不倫している事について、実は頭の片隅ではまだ信じ切れていなかった。いや、信じたくなかったと言うべきか。
こんな人目の付かない場所でこっそり会っている時点で、限りなくブラックに近いグレーだと思うが、それを確かめたいという強い欲求に負け、俺は足音を忍ばせ、そーっと二人の側まで近づき、壁の陰に身を潜めた。すると……
「好きなんです」
いきなり俺の耳に飛び込んで来たのは、チーフの、いかにも切なそうな声だった。



