「何を見たんですか?」

 と言ってほしいようなので言ってみたら、

「何だと思う?」


 質問に質問で返してきた。総務ってそんなに暇なんだろうか。こっちは議事録が途中なのに……


「わかりません。見当もつきません」

「昨夜は職場で飲み会だったのよね?」

「そうですね」

「だいぶ飲んだみたいね。あなたも、真奈美も……」

「はあ」

 そんな事、なんで知ってるんだろう。っていうか、早く本題を言ってくれ……

「わたし、見ちゃったんだあ」

 だから、何を?

「あなた達が、一緒にタクシーに乗り込むのを」

「えっ?」


 俺が初めて驚くと、田中さんはそれに気を良くしたようでニッと笑った。


「わたしもね、昨夜は飲んでたのよ。それでたまたま通り掛かったのね。で、真奈美に声を掛けようかなあ、って思ったら、あの子ったら周りをキョロキョロ見て、と言ってもわたしには気付かなかったみたいだけどね、止まったタクシーにあなたを乗せて、自分も乗り込んだわけよ。
 もう、びっくりしちゃったわよ……。真奈美もやるもんだわねって、感心したりもしたけどね」


 無駄に話が長いが、要するにまずいところをこの人に見られたわけで、これは困った事になった、かな。