「佐伯ですけど……」

「田中です。座って?」

「あ、はい」


 田中さんの向かいに座り、店員さんに俺はホットのコーヒーを、田中さんはレモンティーを注文した。


「はじめまして、よね?」

「はい、そうですね」

「私は知ってたけどね、あなたの事」

「え? なんでですか?」

「佐伯君だから」

「はあ?」


 意味がわからない。


「ドキドキするわ……」


 はあ?


「間近で見るの、初めて」


 何を言ってるのかさっぱりわからん。変な人だなあ。

 飲み物が来て、面倒だから俺はコーヒーをブラックのまま飲んだ。ひどく苦いが、たまにはいいかも。


「あの、どんなご用件でしょうか?」

「ああ、そうね。ごめんなさい。つい興奮しちゃって」


 何に興奮してるんだろうか、この人は。何だか知らないが、調子狂うよなあ、まったく……


「わたしね、齋藤真奈美と同期なの。しかも仲がいいのよ」

「齋藤……チーフとですか?」

「そう。あの子、あなたの上司よね?」

「そ、そうです」


 なるほど。という事は、チーフに関する話なんだろうけども、いったいどんな……


「ズバリ言うわね。わたし、見ちゃったんだあ」


 田中さんは、なぜか誇らしげに言い、俺の反応を窺った。この人が何を見たのかは気になるが、それ以前にこの人との会話は疲れそうだな、と俺は思った。