「それで、どうなの? 忘れてくれるの?」


 俺が頭を抱えていると、チーフから催促されてしまった。だが、忘れるもなにも、そもそも憶えてないわけで……


「忘れてください。お願いします!」


 俺が黙っていたら、なんとチーフは俺に頭を下げた。しかもテーブルに額がつくほどに深く。


「チーフ、顔を上げてくださいよ」

「忘れてくれるの? だって、お互いに酔ってたんだもの、ハメを外しただけなのよ。ね?」


 なるほど、さっきチーフが“だって……”と言いかけたのは、そういう事だったんだな。よし、正直に話そう。


「チーフ」

「うん」

「実はですね、忘れる以前に……憶えてないんです」

「……へ?」

「俺、じゃなかった僕、昨夜は飲み過ぎてて、まるで記憶がないんです」

「そ、そうなの? 結構しっかりしてたわよ、あなた」

「そうですか? でも、憶えてないんです」


 やっぱりか。今回も傍目にはしっかりしてたのに、記憶がないんだな。俺の頭って、おかしいのかな。

 それにしてもしっかりしてたって事は、しっかりとこの人を抱いた、って事だよな。ああ、その部分だけでいいから、思い出してみたいなあ。


「なんだ、憶えてないんだ。悩んで損しちゃった」


 チーフが、ボソリとそう呟いた。