「えっ?」


 まさか、チーフがそう切り出すとは思ってなかった。


「全部忘れてとは言わないわ。私達がした事はいいの。忘れてほしいのは、私があなたに言った事なの。だって……」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 チーフは、“私達がした”って言ったよな、今。“した”って……

 という事は、したのか?
 昨夜この人と俺は、アパートのあの部屋で、あれやこれやを、したのか!?


「うわあー」

「ちょっと、声が大きいって……」

「す、すみません」

「もう……」


 いけねえ、つい叫んじまった。しかし、それも無理ないと思う。だって、このクールビューティーなチーフと、あれをしちゃったんだから。でもなあ、憶えてないんだよなあ、非常に残念な事に。あ、そうだ。

 不意にある事を思い出し、俺はズボンのポケットに手を突っ込んだ。そしてティッシュに包んでいたアレを手の平に乗せ、チーフに差し出した。


「これ、チーフのですよね?」


 チーフは一瞬怪訝そうな顔をしたが、ソレを見て、「ああ……」と言って目を丸くした。例のイヤリングだ。


「それ、僕の部屋に落ちてました」

「そう? どうもありがとう。お気に入りだから、失くしてがっかりしてたの」


 これで決まりだな。やっぱりチーフは、昨夜俺の部屋に来たんだ。そして、やっちゃったんだ、俺達。

 ああ…………どうしよう!?