弟の着替えや荷物をひよりがまとめ終わる頃、
鉄観音が佐々城家に到着した。
「ああ・・・。酷い事に成ってるな・・・」
修羅場の後が克明に残っている部屋を見ると、
心臓を滅多刺しされた男の遺体が在った。
「う、おぇ〜・・・」
鉄観音は台所で戻してしまった。
「まさか、ひよりちゃんが?」
一抹の不安が胸を霞めた。
点々と、血の跡が階段を昇っていく。
その先には、包丁を持った母親らしき人が、ひよりに向かって叫んでいる。
瞬間、ひよりは弟をかばいながら背中を刺された。
「あっ!ひよりちゃん!」
鉄観音は思わず叫んで、母親に体当りをしていた。
カランカラン・・・。
母親の手から包丁が落ちて、血まみれの母親は床に転がった。
ひよりは苦痛に顔を歪めながらも、弟を庇っていた。
ドクドクと、ひよりの背中から血が流れる。
しかし、一定量流れ出すと、ひよりの背中の傷は塞がり出した。
鉄観音は、黙ってそれを見ていた。
ひよりは、弟を抱いたまま母親に言った。
「私は死ねなかったの。しかも、もう普通の体では無くなってしまったの。
本当にごめんなさい。
今まで育ててくれてありがとうございました」
ひよりは母親に頭を下げた。
そして鉄観音を見て言った。
「弟も一緒じゃダメですか?」
鉄観音は、一筋の涙を流して自分を見詰める少女に、心を打たれた。
こんな幼い少女が、
壊れてしまった心に、
余りにも残酷な現実を、受け止めなければならない事が、
鉄観音は叫びたくなるほど悔しかった。
「うん。いいよ。ひよりちゃん帰ろう。君の家に」
鉄観音は精一杯で、ひよりに言った。
「家族だから。俺達」