「ねえ、沙織ちゃん。
沙織ちゃんてつねっても痛くないって本当?」
クラスメートの一人が、沙織に聞いてきた。
「うん。痛くないよ。つねってみる?」
沙織は腕をクラスメートに差し出す。
「うんうん。沙織ちゃんの体は痛くなくても、心は痛むだろうからつねったりしないよ」
クラスメートは沙織に思いがけないことを言った。
沙織はある程度覚悟していた。
めずらしがられて、きっとイタズラされるんだろうと。
ひよりもそう考えて、沙織の側から離れなかった。
しかし、実際クラスメート達は、イタズラや幼児特有の残酷な興味よりも、
何も痛みを感じない沙織の体を気遣うと言う、思いがけない思いやりだった。
これにはひよりも驚いていた。
同じ学年で、同じクラスで、それなのに自分達と違うと言う勝手な理由で、
今まで学校でも苛められた記憶しかないひよりにとって、新鮮な驚きだった。
「だって二人とも、クラスメートだし。
友達だし。
二人が嫌がる事なんてやらないよ」
クラスメートは真剣な眼差しで、皆頷いていた。
何と言う事か。
今まで、
同じ人であったのに理不尽に排除され、
違う生命体に変化した事で、受け入れられるなんて。
皮肉と言うか、理不尽と言うか、
運命は意地悪なんだとひよりは思った。
と、同時にその気持ちが歯痒いほど嬉しかった。
「みんな、ありがとう。私たちと、これからも仲良くして下さい」
沙織は立ち上がって、皆に頭をペコっと下げた。
それを見ていたひよりも、沙織と一緒に頭を下げる。
クラスメートは、
「こちらこそ宜しくね」と、二人に声を掛けた。
沙織も、ひよりも、
とても幸せな気分になって、クラスに溶け込んでいった。
魔導師の卵は、と言うか魔導師は、共存して生きていかなければならない。
理(ことわり)に反する強力な不条理に立ち向かう立場の魔導師。
個の力ではどうにも成らない事を、本能で理解している。
それは人であっても、妖怪であっても同じ立場で共存している事を認めなければ、
戦うことも、罰する事も、協力する事も出来ない。