「あぁ、一滴も残っていない。何故、私のために残しておいて下さらなかったの?」
やたら肩幅の広い、ゴリラみたいなジュリエットが、腕に抱いた美少年の亡骸に一生懸命話しかける。
ただカッコいいだけじゃない、純粋だけれど、短慮で、欲望を押さえられない、思春期の少年を見事に演じきった清水。たかが高校の学園祭の、素人だらけのクラスの劇で、髪まで切って。
俺の腕に抱かれた彼女の胸は、さらしの下にその膨らみを隠しながらも、疲れを隠しきれずに、静かに上下していた。苦しげに開いたままの唇。閉じた瞳を覆う長い睫毛。首筋に浮いた一筋の汗。
「ああ、この唇に、少しでも毒が残っていないかしら?」
ここで俺は、死体の筈のロミオが思わず逃げたくなる程の下品なディープキス、のフリをする予定だったんだが、、変だ。身体が動かない。
気付いたクラスメイト達が、舞台の端でざわつき始める。やばい。俺、何をするんだっけ?はやく動かないと!


