「何やってんのよ。大丈夫?」
「じっ自分でできる。触るなよ。」
「だったらさっさとやって。もうギリギリよ。」
「やる!やるから触るな。」
「フッチーも!!なんで気付かないのよっ。」
「わりぃ。付けまつ毛に苦戦して、そっちまで気が回らなかった。」
俺はあわてて清水の指示した通りの濃いピンク色の口紅を唇に塗り付けた。
いよいよ開演のブザーが鳴る。舞台の上では清水はいつも通り、完璧に演技をこなしていた。ジュリエットとの出会いにはしゃぐロミオ。友を殺され憤る。そして兄との決闘。追放され想い悩むロミオ。半年前、宝塚の入学試験に落ちた清水の、これは意地というかけじめなんだろう。
舞台後半、墓地の中で眠りながら清水、じゃなくてロミオを待っている間、ジュリエットじゃなくて俺は、なんだかモヤモヤしていた。妥協したくないのは分かるが、今日の清水は、テンパり過ぎだ。


