鈴木くんと彼女の不思議な関係


「そんなおばさん臭い色!ジュリエットなんだから、ピンクに決まってるじゃない!」
清水はテンパり過ぎだ。だがもう文句を言う気にもならん。好きにしてくれ。ところで、何がピンクなんだ?

 清水はクリームとティッシュを持って来て、俺の前にかがむと、いきなり俺の顎を掴み、俺の唇にクリームを塗り始めた。彼女の指が俺の唇の上をヌリヌリと動いて、ルージュを浮き上がらせる。

 完璧なメイクを施した凛々しい少年の顔。黒く縁取られて眼力を増した瞳が、俺の唇を覗き込む。本番前の緊張からか、少し上気した頬はこれ以上無い程にセクシーで匂い立つようだ。

 突然のことに、俺は全く反応できなかった。清水は「もうっ。世話が焼けるわね。」と言いながら、ティシュで俺の口紅を拭き取る。
 彼女が肌色のドーランを手にもう一度俺に触れようとしたとき、俺はやっと我に返り、後ずさった拍子に椅子ごとひっくり返ってしまった。