鈴木くんと彼女の不思議な関係


「神井くん!しっかりっ!がんばれっ。」
突然、体育館に大きな声が響く。多恵の声だ。よく見ると、対戦相手の2年の中に神井がいた。そうそう。彼等にだって応援してもらう権利はある。

「まだ、走れるよ。2年生がんばって!」
 多恵が劇部で鍛えた声を張り上げる。普段は大人しくて人見知りの多恵。球技大会で声を張り上げて応援とか、全然キャラじゃないと思うんだけど、そう言う所を全く意に介さない所が彼女の良い所だ。疲れた顔をしていた2年の男子達が、少し気分を盛り返した。

「大野さん 俺はー?」
体格の良い男子が多恵に声援をせがむと、多恵は惜しみなく声援を送った。
「がんばって!応援してるよ!」

「多恵ーっ、俺はー?」
鈴木が拗ねたように、声援をせがむ。だが多恵は
「先輩はがんばらないで!」と返した。

周囲からクスクスと笑いが漏れる。こんなときまで仲良しアピールしなくてもいいのに。鈴木はゴール下で黄色い声援をあげていた女子の集団に気付いていないのか。