「見慣れない天井だ」

くさい、よく聞くフレーズを言う。
すると独り言のはずが、返事が帰ってきた。怖いなぁ。ちなみに私は幽霊の類は信じないタイプ。

「何言ってんのょ…」

もうすっかり聞きなれた、女の声。小鳥のさえずりでかき消されてしまいそうな声だった。
馬鹿にしているのではないようだ。はっきり発音したつもりが、私の声は起きて3秒ほどで発したため、本当に聞こえにくかったようだ。

「おはようさん。仕事は?」
先程よりはっきりとした声

「おはようございます。片付きましたよ」
自分でも自覚したほど、情けないボケた声。

なるほど。仕事が出来る人間と出来ない人間の違いはここにあるのか。



ここはT高校の生徒会室。T高校はそれなりに由緒正しく、県内ではブランド扱いされる。

今目の前にいる目覚めの良い女性は生徒会長。名を松下優香。一言で言えば完璧超人。スペックは上の中あたり。
私は誰もやらない会計職に無理やり入れられた哀れな奴。名を名取飛鳥。一言で言えば哀れな奴。



「全く、学校で徹夜なんて…文化祭でもないのにありえないでしょう。誰が先生に頼んだと思ってるの?会長様に敬意を払ってご奉仕なさい。コーヒー」

この人の声は良く通る。生徒会役員選挙でもマイクによく通った綺麗な声を出してた。ていうか朝からテンション高くね?

「仕方ないじゃないすか、この学校部活多いし。それ以前に決算報告提出が各部遅いし、先生も2日前になって『まとめて提出しろ』ですよ。私だって苦労してます。ブルマンでいいですよね?」

理不尽だ。みんなたかって私を潰そうとしているに違いない。そう思う事がある。いやマジでこの量を、このテスト1週間前に、期限は二日間でなんて、先生には慈悲の心がない。

「私に敬意を払えと言っているの。だれが愚痴をいえと言った?やっぱり紅茶がいいわ。」

いやしかし、この人のことは私自身本当に尊敬している。よかった、焙煎しようとしていたところだった。

「同じようなことを夜中にも淡々と言われました。加えて寝言でも言ってましたよ。気付いてます? ダージリンでいいですか? 」

この学校には『生徒の自立を重んずる』と言う堅苦しい方針があり、それに則って学校には時計が一台もない。置時計すらも。
腕時計が移動してちょうど脈を測れるとこにあった。えっと、7:15。
時間を確認したのと、ヴぇぇ!? と奇声が聞こえたのはほぼ同時。声の発信源は松下会長。

「どうしました? そんなラブ〇イブの某キャラみたいな声出して」
「私の方が先に寝落ちたの? そんなはずは…」
「会長コーヒー飲まなかったからですよ」

昨晩、せっかく入れてやったというのにいらないとか抜かしやがった。私は2杯コーヒーを飲んだ。

「……変な事してないよな? 」

する訳が無い。見た目はそれなりだが、性格はいけ好かないから。私はフッと笑い、

「自意識過剰ですよ。返事がありませんでしたがどうぞ、ダージリンです。ストレートでどうぞ。」


空は曇っていた。だから彼女の白い肌が少し赤くなったのがよくわかった。っておい、そのダージリンはいいやつだからストレートでって……
レモン目ぶしゃーをやろうかと思ったが、レモンが入ったダージリンを幸せそうに飲む会長を見ると、する気も失せる。