「わぁ……すごい、すごい。
本っ当ーに、三歩で降りてきた♪」
「……なんだよ、そりゃ」
病室から庭へは簡単におりられたけれど、それでもやっぱり。
軽く回ってきためまいをこっそり隠して。
無邪気に笑う由香里に、オレは少し大げさに、ため息をついてみせた。
昼間は患者や、病院に来る家族なんかでにぎわっている中庭には。
今は、オレ達のほかには、誰もいなくて静かだった。
特に、庭の片隅にある、ツタのからまった洋風の東屋で、月明かりに照らされた由香里を眺めれば、まるで。
どこか知らない遠い世界に、たった二人で来たみたいだ。
本当に三歩、なワケじゃないが、それでも。
日常の空間から、少ししか離れていないのに。
吸い込まれそうな、変な感覚に抗うように、頭を振って、オレは由香里に聞いた。
「由香里は、毎晩こんな散歩をしているのか?」
「……毎晩、じゃないけどね」
由香里は、そっと微笑んで。
木のテーブルに持っていた箱を置き……慎重に開けた。



