「それこそ、お前は小さな子供じゃないんだ。
 外に出たければ。
 一人で勝手に出て行けばいいことだろう?
 何で、俺がお前を連れ出さなければ、いけないんだ?」

「……母さんが死んで。
 親父は相当参ってる。
 これ以上取り決めを破って、親父のココロに負担をかけたくないんだ」

「なんだ。
 音雪は、案外親父思いで。
 ……優しいんだな」

 にやり、と笑う薫に、オレは首を振った。

「ちがう。
 オレが二十歳(はたち)になる前に親父に何かあったら。
 ウチに乗り込んできた、あの女が村崎家にのさばる事になる。
 それだけは、絶対嫌なんだ」

「……ふうん。
 でも。
 本当に理由は、それだけか?」

 きらり、と光る薫の瞳に、オレはため息をついた。

 ……勘のいいヤツは、コレだからキライなんだ。

「……理由は、それだけだ。
 頼みを聞いてくれるんだったら。
 オレの方からも、特別にボーナスを出……」

「……例えば。
 俺と一緒に、だったら。
 オヤジさんは、お前を外に出すのか?
 まるで過保護のガキみたいに?」

「……うるせぇな」