「……多分。
 オレを……この部屋に一秒でも長く留めておくため」

「なんだ、そりゃ!?」

 驚いて、セリフを重ねる薫に、オレは肩をすくめた。

「さて、な」

 ……薫にも、秘密だ。

 自分のかっこ悪い、トコロなんて。

 オレのセリフに、薫は、首を振った。

「どっちにしたって、俺は帰る。
 役に立たないのが判ってて。
 ここに留まっているわけにはいかないからな」

 売るものがないのに、ただで金を貰うのが一番キライなんだ、と。

 身を翻して、さっさと部屋を出て行こうとする薫を、オレは引き止めた。

「待てよ、薫。
『家庭教師』のあんたは要らないけれど、頼みたい事は、あるんだ」

「なんだよ」

 怪訝な顔をして振り返る薫に、オレは嘲った。

「……薫。
 親父の思惑がどうあれ。
 オレとしては、さすがに。
 もう少しくらいは『外』に出たい
 学校と家の往復のみの生活なんざ、そろそろ飽きた」

「……それで?」

「勉強のため図書館行き、っていう名目で。
 オレを外に連れ出してほしいんだ」

「はあ?」

 オレの申し出に、薫は更に怪訝な顔をした。