薬を飲んで、熱を得れば。

 次に来るのは、身を切るような寒さ、だっていうことは、判っていた。

 いつもの三倍の寒さが、どれほどのモノなのか考えると恐ろしく。

 せめて、その波を自分の部屋で受けて、耐えようと。

 そのあとは。

 薫とは必要なことだけ話して、ホテルの部屋を飛び出そうとした。

 けれど。

 その、部屋の玄関においてある鏡を、何気なく眺めて息をのむ。

「……瞳が……紫に……!」

 そう。

 オレの瞳は。

『アレクサンド・ライト』蝕まれた印の色に染まっていた。

 その色は決して、濃いわけではなく。

 光の加減でわずかにきらめくような。

 ともすると見落としてしまうほどの、違和感でしかなかったが。

 さやかに指摘された時には、判らなかった色に。

 今、自分で気が付いてしまった。

 ……紫色の、悪魔に。

「紫音……?」

 出入り口で止まった、オレの。

 染まった瞳の色に、気がつかなかった薫が、心配そうに、声をかけてきた。

 それに、なんでもねぇ、と言い返し、オレは改めて外に出る。