「誰かの……せいで……散々……鍛えられた揚句。
 最近……自室でも……眠れなく……なってきてる……から」

 傍らにヒトの気配がする、こんなところで。

 眠れるわけが、ない。

 そんな、オレの言葉に、薫が、目を見開いた。

「……眠れないの?
 薬を、飲んでいるのに?」

「……」

 ……由香里が急変したという一報を、寝入りばなに、聞いたせいか。

 それとも、良く考えたら、もっと前からで。

 別に、理由があるのか判らない。

 眠る直前の、あの。

 うとうととした感じが、妙に、怖くて。

 由香里が逝ってから、この三日ぐらいは、特に。

 まともに眠れてなかった。

「紫音……」

「……たぶん……時がたてば……治んだろ?
 それよりも……」

 心配そうな顔の薫に、軽く手を振って。

 オレは、強引に、話を変えた。

「……それよりも……薫は。
 ……未来(さき)のことを、考えているか……?」

 薫は、今、まだ医者だった。

 けれども、不正に薬を売買した罪で、明日、警察に捕まったとしたら。

 これから先も、医者でいられるか、なんて判らなかった。