「紫音は、タフになったわねぇ……
 少なくとも、朝まで起きられないくらいには、抱いたつもりなのに」



 由香里の葬式が終わったその夜に。

 あいたココロのスキマを埋めるように。

 薫と始めた、獣同士のようなSEXが終わって、シャワーを浴び。

 脱ぎ散らかしていた、黒の礼服をもう一度身にまとっていると。

 まだ裸のままベッドの中にいる薫が、呻くように言った。

「このシチュエーションだったら、普通。
 眠る紫音を置いて、あたしが、一人。
 警察官が山ほど待つ自宅へ、帰ってゆく……みたいな、つもりでいたのに」

「……なんだ……それは」

 通常の三倍飲んだ薬の効果で、まだ上手く舌が動かせず。

 頭痛がひどかったけれども。

 由香里と同じ声をきき、瞳を見つめながら。

 由香里と刻んできた記憶の数々を。

 逃げずに、思いだしたのが、良かったのかもしれない。

 相変わらず、ココロは張り裂けそうだったけれども。

 だいぶ『マシ』な気分には、なっていた。