危険な愛を抱きしめて

 オレは、何もできなかった。

 それどころか。

 今まで、何も知らなかった。

 少しでも、長く生きるためには。

 イノチを引き留めておくには。

 あんな処置をしなくては、いけなかったなんて……!

 閉ざされた扉の向こうでは、まだ。

 何か由香里に処置をしているようだったけれども。

 オレは、もう。

 中に入る事は、できなかった。

 由香里をこの世界につなぎとめるために。

 もしかしたら、冷たい草原の上を歩いているかもしれない由香里に。

 声をかけてやることさえ……できなかった。

「大丈夫か?
 ……音雪」

 冷たい水を薫に押しつけられて、オレは、ようやく声を出すことができた。

「……薫」

「延命処置を見て驚いたか?
 酷い、と思うかもしれないが。
 今の由香里は意識がないから、本人は見た目よりも辛くないだろう。
 本来は、患者の家族や知人には、見せない処置だが。
 俺が、医者のはしくれだからな……」