「由香里!」




 取るものも、とりあえず。

 兄貴の単車を、勝手に拝借して。

 満月の夜の中をすっ飛ばした。

 真正面から、まともに食らう、慣れねぇ、風の抵抗に。

 自分のカラダを持って行かれそうになりながら。

 大型バイクに張り付いて。

 ただ、由香里の無事だけを祈ってた。




『由香里が、急変した』なんて。






 ……もう、まもなく、時間の問題で。

 由香里がこの世から、去ってしまうなんて。

 医療関係に携わるものの、特有の冷徹さで。

 薫が、オレに、告げて、よこしやがったから。



 ……由香里は、今。

 オレが、前に死の淵で見たような。

 冷たい草原や、深い奈落谷底が口を開けている光景の中。

 怖くて震えているんじゃねぇか?

 と、気が気でなかった。

 迷わず、こっちに帰って来られるように。

 一刻も早く、由香里の側で名前を呼んでやりたかった。

 救急車よりも、たぶん速い。

 記録を塗り替えたはずの猛スピードでオレは、病院にたどり着き。

 フルフェイスのヘルメットを小脇に抱え、由香里の病室の扉を、壊さん勢いで、開けた。