「雪……
 雪……?
 大丈夫……?」



 愛しい声に呼ばれて、目が覚めれば。

 そこは、由香里の病室だった。

 どうやら、オレは。

 見舞いの最中に、由香里のベッドに突っ伏したまま。

 疲れ果てて、眠っていたらしい。

「さすがの雪も、大学の勉強は、難しい?
 夜遅くまで、勉強しているのかな……?」

 ベッドにアタマを預けたままの、オレの髪を撫でながら。

 由香里は、何も知らずに、微笑んだ。

 その手は、悲しいほどに、痩せさらばえて。

 打たれ続ける、点滴の跡が痛々しかった。

 優しい言葉が紡がれる口には、もう酸素マスクが、欠かせずに。

 毎日、毎日、由香里のキレイな顔を、半分も隠していた。



 ……もう、耳を澄まさなくても。





 ……音が、聞こえる。







 由香里の命の砂が、こぼれて落ちて。




 ……消えてゆく、音が。