……どうやら。

 さやかは、ビリヤードが気に入ったらしい。

 オレを街中に捨てる気と。

 親父に余計なことを密告する気は、なくなったようだった。

 程良く遊んで、プレイルームを追い出され。

 とりあえず去った、当面の危機にため息をつきかけたとき。





 ……別の危機が、オレの名前を呼んだ。
 


「音雪?
 なんで、そんな部屋から出てくるの……!」

 まるで、悲鳴にも似た。

 苦しげな叫び声に振りかえれば。

 そこに、アヤネがいた。

 大きな目にいっぱい涙をためて、アヤネは、オレの目の前で、立ちすくんでいた。

「この部屋は、お母さんが、気に入った男のヒトや、ホストを取り換えて遊ぶ部屋なのに。
 なんで、音雪が出てくるの……!」

「アヤネ」

 声で我に返ったアヤネは、取り乱したように、拳でオレの胸をぽかぽかと殴る。

「どんなに誘っても……頼んでも。
 今まで、キスどころか、まともに手も握ってくれないのに!
 何で、お母さんとなら、するの!?」

 ……だって、それは。

「オレが、ホストだから」

 しかも。

 弱みを散々握られた、薄汚いホストだから。