風ノ塚には、到底。

 命が尽きかけている由香里の話や。

 これからオレが、何をしようとしているか、なんて、話せなかった。

 ただ、新しい目標ができたから、ケーキ屋でのバイトの延長は出来ない、と。

 風ノ塚に話せば。

 ヤツは、とても残念そうにうなづいて、それでも心良く。

 オレの未来を祝福してくれた。

「村崎君なら、きっと~~
 どこにいても、何をやっても上手くいくでしょう~~
 新しい場所でも是非。
 頑張ってくださいね?
 だけども、これから先~~
 目標に迷ったり。
 先に進めなくなることがあるかもしれません~~
 そしたら、一度は僕のコトを思い出してくださいね~~?
 厨房の、村崎君の席は。
 いつだって、開けたままにしておきますから」

「……風ノ塚……!」

 精一杯の、風ノ塚の心遣いに、言葉が詰まった。

 ぼやけそうになる、視界をそのままに。

 もう一度、風ノ塚に深々とアタマを下げると。

 パテシェと、ケーキ屋にきっぱりと背を向けて、もう振りかえらなかった。