アツくなるオレとは、反対に。

 親父はあくまで冷静に、ひょいと肩をすくめた。

「自分の進む道を自分で決めて突っ走るのは、悪くないし、カッコいいよな?
 だけども、音雪に世間一般の暮らしができるのか?
 お前が今、普通に着ている服も、食ってる食事も。
 ケーキなんぞを作って売るぐらいでは、到底、賄(まかな)えないぞ?
 贅沢に慣れ切ったお前に、貧乏暮らしができるのか?」
 
「……」

「九条家は、ウチと違って一代で財を成した家だし、問題を多く抱えてるが、勢いがある。
 お嬢ちゃんも、お前に丁度ぴったり釣り合うほど、若くて美人なんだからイイじゃないか。
 しかも、この事件のおかげで、貸しができた。
 お前は婿に行ってもわがままの言い放題だぜ?」

 そんな問題じゃねぇ! と怒鳴るオレに。

 親父は妥協するようにほほ笑んだ。

「別に、ン、百年の歴史と面倒くせえシキタリを持つ、村崎の跡を継げ、と言ってるわけじゃない。
 兄貴の一雪が、しっかりやってくれてるからな。
 ケーキ作りを止めろ、という気もない。
 趣味の範囲なら、是非続けて、たまには父さんに焼いてくれ。
 そして……ここだけの話」

 言って、親父は声をひそめた。