「兄貴と喜代美だって、詰めてるって、聞いてたけど、いねぇじゃねぇか!」

「一雪(かずゆき)はとっくに、父さんの代理で動いてるし。
 喜代美は、警察署に出かけて、話を聞いてるはずだ」

「……それで、誰もいないことをいいことに、さっきの女達を呼んだのか!?」

「なんだ。
 お前がスネている理由は、ソコか?」

 言って親父はにやり、と笑った。
 
「婚約者の、九条のお嬢ちゃんのところじゃない。
 別な女のところに泊まった揚句。
 さらに一晩、どっかに無断外泊してた野郎に言われる筋合いは、ないね。
 すげーぜ。
 さすが、オレの息子。
 ガキのクセに、なかなかやってくれるじゃないか?」

「ばっ……!」

 莫迦野郎!

 と怒鳴るはずだった言葉は。

 腫れた喉にかすれて消えた。

 オレは、カッと頭に血が上るのを感じながら、ようやく声を押しだした。

「……何度も言わせるな!
 オレは、アヤネを婚約者だなんて認めてねぇ!」

「……ついでに、村崎家のために、動く気もない。
 聞いてるぜ?
 何度もな」