まだ、頭痛が取れないまま。

 ぐらぐらするカラダをはげまして。

 乾かしておいてくれた、自分の服に着替えている最中に、ショコラがベッドルームに飛び込んできた。

「……悪りぃ。
 オレは、まだ着替え中で……」

 終わるまで、ここから出ていてくれないか?

 と言葉の外ににじませたのに。

 ショコラは、完全に無視して、叫んだ。

「今! 表にスッゴく豪華な車が止まったの!
 あれは、きっと、特別仕様のリムジンよね!!」

 私、結構長い間水商売してたけど、あんな車に乗ってくるヒトなんて見たことない! と。

 興奮気味にしゃべるショコラの話を聞いて、頭痛が増した。

 町谷め……!

 普段、オレから車をよこせ、と言ったことがないもんだから、やりやがったな。

「……たぶん、それ。
 オレの迎え」

「……は?」

 イヤイヤ言ったオレのセリフに、ショコラの目が点になる。

「だって、きみ。
 ケーキ屋のバイト君でしょ?
 確かに、雪ちゃんのは、ブランドモノの服や靴だったけど。
 何度か袖を通した跡があるし。
 クリスマスだから、一着しかない勝負服かなって!
 まさか……」

「これは、普段着。
 ……金持ちは、親父で、オレじゃねぇ」

 ため息と一緒に、頭痛の元を吐きだすと。

 同時に、ショコラの部屋のチャイムが鳴った。

 ぱたぱたと、玄関に向かうショコラを見送って、着替えの続きを始めたオレの耳に。

 聞きなれた声が、とぎれとぎれに入ってきた。

「……村崎家の使用人頭を務めさせていただいています『町谷』と申します。
 ここに、音雪さまが、お世話になっていることを聞き……」