「あんな状態になっているのに。
 九条のお嬢さんは、まだ由香里のことが邪魔だって、よ。
 ちょっかいをかけてきた、九条が裏の顔で使っているチンピラをひねったら。
 薬や、音雪のことやなんか。
 いろんなハナシを聞けて楽しかったぜ?
 しかも、九条家をちょっと揺すってみたら。
 薬(やく)の売人の仕事もくれたしな……
 俺には今、金が必要だから、渡りに舟って言うヤツだ」

 ……聞こえてるか? 音雪?

 なんて。

 オレを、なのか。

 それとも自分自身を嘲笑っているのか、良くわからない、薫の声が、遠い。

 オレがもう、聞いてないだろうと思ったのか。

 さらに小さな、薫の独り言を耳にして。

 オレは、とうとう。

 理性と意識を保つ努力を、完全にあきらめた。

「俺には、どうしても金がいるんだ……
 金が手に入るのなら。
 どんなに汚いことだって、やってやる……!」

 なんて……そんな風につぶやかれたら。

 そう、薫がなりふり構わず、必死にかき集める金がもし。

 由香里のために使われてくれる可能性が、あるのならば……

 オレは、もう。

 どんな抵抗もできないじゃねぇか。