……いや。

 でも、たしか。

 薫とは、少し前、ケーキ屋を出た時に、電話で話をしたハズだった。

 その時の様子から、察するに。

 薫は、今。

 由香里と二人で家にいて、オレを待っているんじゃなかったか?

 そう、思っているうちに。

 彼らは、舞い散る雪を避けるように、薄汚れた路地裏へ消えていく。

 オレは、クビを一つ振って、由香里の元へと急いだ。

 それは。

 薫のイメージからは、場違いな所に消えていくヤツの姿を。

 見間違いだと思ったから……だったのに。

 オレを暖かく迎え入れてくれた由香里の家に、薫の姿はなかった。

「……?
 薫はどうしたんだ?」

 だいぶ調子の良さそうな、由香里の姿にホッとして。

 粉雪を払い、コートを脱ぎながら、聞けば。

 由香里は困った顔をしてちょっと笑った。

「兄貴は、さっき病院から急な呼び出しがあって、出てったわ。
 一時間で帰る、とは言ってたけど……
 ごめんね?
 雪は、ケーキ屋さんのバイトで忙しかったハズなのに。
 無理やり、誘ったはずの兄貴がいなくなっちゃって」