「……なんだよ、薫。
 急に元気になりやがって……!
 兄妹水入らずで、イブを過ごしたいって言うのなら。
 ……わざわざオレに声をかけずに。
 こっそりやればいいじゃねぇか?」

 笑って、そう突っ込めば。

 薫は、別にそんなつもりではない、と困ったようにアタマを掻いた。

 ……まあ、いいか。

 しかたねぇ。

「……判ったよ。
 イブの日は、行ってやる。
 ちっとは、遅くなるかもしれねぇが……
 未来の最高パティシエのオレの作ったケーキを持って来てやるから。
 ありがたく、食うように」

「……なんだ?
 由香里は、お前の作ったヤツを、リズミカルケーキ、とか言ってたぞ?
 ……ちゃんと、食えるヤツなんだろうな?」

 口元をほころばせて、笑う薫の目の前に。

 オレは、ピースサインを出して言った。

「修行したからアレよりは、だいぶマシだって、由香里に伝えとけ」

「ほほう、相変わらず、自信満々じゃないか?
 楽しみにしておくぜ」

 なんて、薫は、普段通り。

 口調も軽く笑ったけれど。




 ……薫がその瞳まで、笑っていなかったことに。

 オレは、この時。

 全く気がつかなかった。