……さく さく さく



 女の白い手が。

 器用にアップルパイを切り分ける。

「あの……喜代美様。
 それは、この町谷がいたしますので……」

 おずおずと申し出た町谷に。

 喜代美が、冷たく微笑んだ。

「けっこうです。
 私の作ったパイですから、最後まで自分で取り分けます」

 海外に来ても、和服をきっちり着ている喜代美の迫力に。

 町谷は、あっさり降参して、困ったようにオレを見る。

 オレは、ため息をついた。

「……パイなんて焼いても、オレは食べませんよ?」

 そうさ。

 なんで、こいつの作ったアップルパイなんざ、食わなくちゃいけないんだ。

 オレが言うと、今度は喜代美が、ため息をついた。

「……音雪さんは、なにをスネているんですか?」

 ……は?

 思いもかけない、喜代美の言葉に、言葉に詰まる。

「……お父様やお兄様が、付き添っていただけないから、腹を立てているんですか?」

「そんなことは、ありません!」

 そうさ。

 小さなガキじゃ、あるまいし!

 手術も無事に終わって二週間もたったのに。

 いまさら、親の付き添いなんざ、いるもんか!