「……え……?」

 その、小さなつぶやきを聞き咎めると、薫はクビを振った。

「何でもない。
 それよりお前は、妙な色気を出さずに、おとなしく寝とけ。
 なんせこれから、大変だぞ?
 検査結果と、体力次第だが、お前には手術が待ってるんだからな」

「ナイフを……抜く?」

「もちろん、それもそうだが。
 もっと大物が棚上げになってるだろ?
 ……心臓のやつ、だ」

「げ」

 それは、確かに。

 放っておいたら命を落とす。

 手術をしても、治る確率が50パーセントの心臓の病気は。

 もう一度発作を起こしたら、問答無用で手術だと言い渡されていたが……

「今……傷は痛んでも……胸は大丈夫たぞ?」

「当たり前だ!
 今は、傷のための点滴の中に、心臓用の薬をがんがん入れてもらってるんだから!
 この状態で胸が苦しかったら、お前、今日で太陽は見おさめだ!」

 口調は軽くても、状態は、相当まずいらしい。

「もう、要救護者をしゃべらせては、いけません!」

 ずっと、処置を続けている救急隊員につつかれて、薫は口を閉じた。

 最後に。

 由香里を守ってくれて、ありがとう、と、ささやいてから。