危険な愛を抱きしめて

 


 きゃーーーっ!!


 耳をつんざくような現実の悲鳴は、立ちすくんだ、アヤネの声。

 そして。

「……雪!」

 青ざめた顔の由香里が、気丈に、俺に向かって飛んでくるのが、見えた。

 それと、ほとんど同時に。

 オレの後ろ。

 ケーキ屋の出入り口の方から、巨(おお)きな男の気配がした。

 ナイフを投げたチンピラが、まだやる気で。

 とどめを刺すつもりで、近づいてきやがったのか?

 だけども、オレは、もう。

 まともに動けなかった。

 痛みと、ショックでボロボロな心臓をわしづかみにされて。

 苦しくて。

 苦しくて。

 声も出なかった。

 それでも。

 襲ってくるヤツの顔だけは見ておこうと。

 痛みに、失神寸前の自分を励まして、ぐい、とそいつの顔を睨んだ。

 と。

 やって来る男の顔を見たとたん。

 本格的に意識を持って行かれそうになった。

 不覚にも……安心感で。

 そう。

 ナイフを投げたチンピラに、蹴りを入れつつ。

 オレに近づいてきた、その男は。





 ……薫、だったから。