「……表通りも、裏口も、それらしいヤツらはいねぇ……」

「でも、いたの!」

 アヤネは、オレの話の腰を折って頬を膨らませた。

「人相が悪いヒトが四、五人!
 私のあとを追いかけて来たんだから!!
 だから、すごく怖かったの……!」

 そう、言いながら。

 アヤネはヒト目もはばからずに、オレに向かって抱きついて来た。

 その、柔らかい感触に。

 オレの理性とは関係ねぇ場所が、そっと疼く。

 目の前に由香里がいるのに!

 罪悪感を伴う、こんな感覚が嫌で。

 オレは、アヤネを手荒に引き離したのに。

 アヤネは、ますます抱きついて来た。

「おい、アヤネ!」

「怖いの!
 怖かったの!
 だから、家まで音雪が送ってくれる……?」

「……お前。
 ちっとは周りを見ろよ?
 オレにだって、都合があるし。
 何より、外には、誰も居なかったぞ?
 それに、どうしてもこわかったら警察に頼れ。
 交番は、近くにあるんだから」

「でも!」

 なぜか。

 いつもより、必死な顔で言いつのるアヤネに。

 意外なところから助け舟が出た。