「きゃ~~!
 た~す~け~て~」

 なんて。

 まるで、役者のセリフを棒読みしているような、悲鳴が聞こえた。

 アヤネの声だ。

「……?」

 突然の小さくはねぇ、声だった。

 閉店を間近に控えて、あまり客はいなかったけれど。

 ケーキ屋にいた全員の顔が、一斉にアヤネの声に向いた。

 風ノ塚も、何の騒ぎかと、厨房から顔を出す。

 オレも、由香里と顔を見合わせてから、店の出入り口の方をみた。

 すると。

 変な悲鳴を上げた本人のアヤネが、ぱたぱたと足音高く、ケーキ屋に飛び込んで来た。

 そして、何事かと眺めるオレと目があったとたん、言いやがった。

「助けて、音雪!
 私、今、悪漢に追いかけれているの!!」

「は?
 なんだ、それ?」

「悪漢って言ったら悪漢よ!
 悪いヤツ!」

 いや、それくらいは、知ってるが。

 悪漢ってお前……

 それは何時代の言い方だ?

 半分呆れながら聞いていた。

 けれども。

 アヤネがとても物騒なことを言ってやがるのは、確かだったから。

 念のため、オレは席を立って、ケーキ屋を出ると、周りをざっと見る。


 しかし。