「風ノ塚さんって、奥さんも……小さな息子さんもいるの」

「ああ」

 風ノ塚は、スィーツを作る時に邪魔な結婚指輪を、首から下げていた。

 女じゃあるまいし、別に、邪魔なら。

 普通に外しっぱなしだっていいのに。

 わざわざ、身につけているぐらいだから……

 ……よっぽど家族のコトが好きなんだろう。

 そして、由香里は、ちょっとだけ笑った。

「……雪の方がずっとカッコいいのに……ね?
 ヒトを好きになる……って、とっても不思議。
 好きになったら……本当に落ちていくみたい。
 ダメだって判ってても……吸い寄せられるみたいに、毎日毎日好きになってく」




 落ちるみたいに、どんどん好きになってゆく……。


 その感覚は。

 今のオレなら判る気がするけれども。


 でも。

 どうしても聞いておきたいコトがあった。

「由香里……一つ聞いていいか?」

 重い沈黙の後に、オレはようやく口を開いた。

「なあに?」

「あんたは、風ノ塚のどこが好きなんだ?」

 既婚者で。

 だいぶ年上で。

 見かけも、そんなに良く無いのに。